ライフラインが寸断!断水になると困ること

死者数は200人を超え、甚大な被害が相次いだ2018年7月の西日本豪雨。土砂災害や河川の氾濫といった直接的な被害に加えて、多くの人々を苦しめたのが断水による水不足でした。各地の水道事業者の給水機能がストップ。復旧の見通しが立たないなか、飲み水はもちろん、トイレ、洗濯などに必要な生活用水の不足が深刻な問題となりました。

雨が少ないために起きる節水や断水はある程度の予測が立ちますが、災害や事故を原因とする断水は予期せず突然起こります。西日本豪雨においても、水源地や浄水場の冠水、水道管の破損、配水池の停電など断水の原因はさまざま。突然の断水、そして復旧の見通しが立たない状況に多くの住民が不自由な生活を強いられることになりました。また断水地域では、ほとんどの飲食店が数週間に渡って休業を余儀なくされることに。建物の被害がなくても、水道が復旧するまでの休業期間は企業や店舗にとって大きな痛手となりました。

断水と聞いてまず思い浮かべるのは飲み水の心配。蛇口をひねっても水が出ないということはつまり、料理をすることもコーヒーを淹れることもできません。さらに、お風呂やシャワー、洗濯、トイレなど私たちの暮らしに欠かすことができない「水」。お風呂や洗濯は少しの間くらい我慢できるかもしれませんが、トイレばかりはそうもいきません。しかも、水洗トイレを1回流すのには数リットルの水が必要(古い便器の場合は10リットル以上必要な場合も!)。西日本豪雨の際も、給水車による配水やミネラルウォーターの配布は実施されましたが、十分な量の生活用水を確保するのは簡単ではありません。水が止まってしまえば、トイレに行くことも、ちょっと手を洗ったり、汚れた食器を洗ったりすることもできなくなってしまうのです。

断水地域を支え貴重な水源となった「井戸」

西日本豪雨の影響で断水が長期化するなか、飲み水や生活用水の供給源として注目を集めたのが「井戸」や「地下水」。尾道には昔ながらの井戸が多く残っており、持ち主の好意から「ご自由にお使いください」とご近所やボランティアに向けて開放されました。これまであまり身近ではなかった井戸や地下水ですが、災害をきっかけにその存在が再注目されるようになったのです。

井戸にはどんな種類があるの?地下水とは別物?

井戸に対してみなさんはどんなイメージを持っていますか?怪談やホラー映画に登場する深くて暗い穴やレトロな手押しポンプを思い浮かべる人も多いかも。では、地下水と聞くとどうでしょう。「ミネラル豊富」「ひんやり冷たい」などなんとなく良いイメージがありませんか?しかし、井戸と地下水は切っても切り離せない関係。地下水を汲み上げるため、地面に掘った穴が井戸なのです。

簡単に分けると、井戸には「浅井戸」と「深井戸」の2種類があります。浅井戸とは、硬い岩盤の上の地下水を利用するため工事費用は比較的低め。雨量や周囲の環境によって水質や水量が変化しやすいため、飲料水以外の生活用水や家庭菜園などに利用されることがほとんどです。対して深井戸は、固い岩盤の下の地下水を利用するため、安定した水量と水質が保ちやすく、飲料としても活用可能。一年中水温が一定で、夏は冷たく冬は温かいのも特徴です。

現代的井戸活用法とは!?地下水は何に使われているの?

一般家庭の場合、井戸は洗濯や掃除、洗車、庭や畑の水撒きに活用されています。深井戸であれば、水道水の代わりに飲み水として利用することも可能。トイレや風呂場など自宅の一部のみに地下水を利用することもできます。

造船所や鉄工所、食品会社といった工場、フィットネスジムなど大量に水を使う施設では水道代節約のため地下水を活用している場合が多いです。また病院や福祉施設、保育所などでは災害時の水源確保のためにも地下水利用が徐々に進んでいます。

井戸についてパッと思い浮かぶ質問をまとめてみました。

井戸を掘削できる場所 高台や海辺でも大丈夫?

水脈は深く掘ればあるというものではないため、おおむねどこでも井戸を掘ることはできます。高台でも条件さえ整えば井戸の活用は可能。まずは工事をする前に、専門業者が調査をします。また、海水の影響を受けてもろ過システムの活用で解決できる場合が多くあります。

そういえば自宅にある古い井戸…再生できるの?

長期間使用していなかった井戸も、再生できる可能性は大いにあります。専門業者が井戸の状態や水質、水位や水量などを調査。井戸内を洗浄し、補強工事をしたり、ポンプなど水を汲み上げる設備や浄水装置を設置するなど、用途に合わせて再生します。

井戸水が濁るのはなぜ?

井戸水の水が濁ってしまう原因はさまざま。浅井戸の場合は大雨が降った際に雨水が流れ込んでしまうことがあります。ときには、施工がきちんとできておらず、少しの雨でも混入して濁ってしまう場合も。井戸のパイプに藻などの不純物が付着して濁りが生じます。ブラシなどの道具や薬品を使って洗浄すれば、水の濁りも改善されます。

井戸水が枯れてしまうことはないの?

地下水が流れる水脈は無数にあり、その水量は異なります。まずは、井戸を掘る際に最適な水脈を探り当てる技術が必要。必要な量を安定的に汲み上げられる水脈を活用するので枯渇することはめったにありませんが、周辺で大きな工事が行われたり、地震などの災害によって水脈が変化したり、水がなくなってしまうこともあります。

注目を集める共同井戸。地域・自治体ぐるみで設置を考えてみる

井戸を設置するには費用がかかります。井戸掘りに加えて、ポンプなどの費用も発生するため、ある程度のまとまった金額が必要です。一般家庭がいきなり井戸を持つことは難しい場合もありますが、今注目されているのが地域や自治体で共同井戸を設置すること。たとえば、学校や保育所、公園や町内の集会所などに井戸を設置し、断水時や災害時に開放している地域もあります。