島で暮らす人々にとって井戸は身近な存在

20年くらい前だったかな…2ヶ月にわたる渇水のあとに山火事が続いて水に困ったことがあって、そのとき多くの家が井戸を設置したんです。その名残があるのかもしれません。因島では井戸のある家が珍しくなく、浅井戸で汲み上げた地下水を畑や庭の水やりに使うのはもちろん、ボーリングによって深井戸を掘り生活用水として地下水を活用しているお宅も少なくありません。

わが家は上水道が整備されていない場所にあるので、自宅から200メートルほど離れた場所から地下水を引いて使っていたのですが、2018年の西日本豪雨で配管がダメになってしまったんです。水道を引くか、あらためて井戸を新設するか悩んだ結果、「地下水ならランニングコストを気にせず使える」と深井戸を掘ることにしました。

水の大切さをあらためて思い知った3ヶ月の断水生活。近隣の井戸が暮らしの支えになった

2018年の西日本豪雨の影響で尾道市全域が断水に。わが家では水道水を使用していなかったものの、井戸の配管が破損してしまったことで、7月から9月の約3ヶ月間は水のない生活を余儀なくされました。泥水で汚れた家の床を洗う水もなく、給水車から水をもらうために1〜2時間は並ばないといけません。うちにはポリタンクがあったけれど、水を入れる容器がなくて困っている人がたくさんいました。ホームセンターでもポリタンクは売り切れ状態。衣装ケースなど家にあるものを代用するなどみんな切羽詰まった状態でしたよ。

私たちは幸いにも知人の家に井戸があったので、そこで水を分けてもらいました。それでも毎日毎日、猛暑の中で水を汲みに行くのは簡単なことじゃありません。真夏に汗をかいてもシャワーを浴びたり風呂に入ることはできないし、洗濯もできない。井戸水を使用しているコインランドリーが島内にあるので何度か活用しましたが、ものすごい大行列に並ばないといけませんでした。家事をするにしても水がなければ何もできません。

豪雨災害の影響で断水

ごはんを作ることはどうにかできても、洗い物ができない。お皿を汚さないようにラップやアルミホイルを敷いて食べたり、とにかく「どうやって洗い物を減らそうか」「いかに節水するか」そればかり考えて時間が過ぎていたような気がします。お皿を一枚洗うこと、使うことがこんなにストレスだと感じたことはありません。3ヶ月よく辛抱したなと我ながら思うほど辛い日々でした。

専門業者と相談を繰り返しながら“一生モノの井戸”が完成

井戸を掘ろうと決意してから水道屋さん経由で赤坂ボーリングさんを紹介してもらい、現地調査や見積もりを経て9月中旬からボーリング工事がスタート。周囲の道路が狭く、井戸を設置する場所に重機が入れられなかったため、一段高い場所から掘り下げることになり工事は思ったより大変そうでしたが、赤坂さんが何とかやってくれました。

深井戸

ボーリングを開始してまず30メートルのところに大きな水脈があり、十分な水量が確保できそうでしたが、かなり金属臭が強かったんです。赤坂さんと相談しながらろ過装置をつけることも検討しましたが、どうせお金をかけるのならともう少し深く掘ってみることに。簡易検査を繰り返しながら、結果として151メートル掘削することになりました。当初の予定より倍以上掘ることになり、金額も見積もりより高額になってしまったのですが、井戸は一生モノ。とくに深井戸は地震にも強く、災害時には自分たちだけでなく周囲の人たちの助けにもなります。

井戸のおかげで思いきり水が使える幸せを実感

現在、生活用水はすべて井戸水でまかなっています。夏は冷たく、冬は温かいのが井戸水のよいところですね。井戸水でお風呂に入ると、体の芯から温もって湯冷めしないんです。髪の毛がしっとりサラサラになったり、柔軟剤を使っていなくてもタオルがふわふわに仕上がる気がします。はっきりした根拠はわかりませんが、ミネラルなど色々な成分が作用しているんじゃないかな。湯船や洗濯槽に水を貯めると青みがかったキレイな色をしているのもウチの井戸水の特徴です。

水の大切さをあらためて実感

そしてなんといっても、水道料金を気にせず使えるのが嬉しいですね。揚水量が1分間に40リットルと十分すぎるくらい確保できるので存分に使えるし、お風呂の水が貯まるのも早いですよ。水のない生活で苦しい経験をしたからこそ、思いっきり水を使えることが本当にありがたいし、井戸を掘って良かったと実感します。これからは庭の花や畑の作物にもバンバン水をやりたいです。